啓蟄、を前に

二十四節気の中では、個人的に好きな<ケイチツ>、音感も字面もいい。啓蟄、3月5日に、蟄虫という名の冬ごもりの虫が一斉に這い出てくる、と広辞苑に出ている。太陽の黄経が345度、という説明もある。昨日(昼あたりから)、今日の太陽の光の強さは虫を這い出させるエナジー


地獄の2月を、クロエ・オブライエンとの邂逅によってナンとかやり過ごすことができた。彼女は男運は悪いし、社交的ではないし、今はやりのコミュニケーション能力がなかった。しかし、ファイアウォールを突き抜けることの能力がハンパではなく、男運も、社交も後処理することのできるものであることを承知していた。そして、本来の意味のコミュニケーション能力もハンパなく備えていることを実証していく。


損得ではなく、愛や正義のために自分に向き合い、人に向き合う、・・・、時代のテーマを体現していく彼女の存在に、私は魅せられた、惚れた、圧倒された。


クロエ・オブライエンほどではないが、もう一人、七四歳の桃子さんという存在も2月を攻略するのによき援軍となった。芥川賞受賞の若竹千佐子さんのデビュー作『おらおらでひとりいぐも』の主人公。スイングする語りは高齢者も若者もへったくれもない。縄文のジャズ、のおかげで久しぶりに小説を読んだ。


新刊『雪の階』(奥泉光著)という大作、怪作も挑戦したいが、持病2つに加え、どうやらノンキャリだった<花粉症>を初体験しているよう。ただ、目のかゆみ、鼻水は右に限られたもので、キャリア獲得、とまでは断定できないとかかりつけ医の診断。触れるものに触れないようそろりそろりと、やり過ごす日々。


大杉漣についても触れたいが、触れない方がという声が自分のうちから聞こえてくる。昨日ラジオでムッシュー・かまやつの一周忌を期に特集番組をやっていたが、あれ、もう一周忌なんだ、と時の流れが整理できていない。ラジオと言えば、この間、五木寛之さんがゲストで出ていたのを聞いた。頭脳明晰で言葉に淀みなく、世における<健康幻想>についてその嘘を喝破されていた、まことにあっぱれな八五歳。個人的には、氏の最初のエッセイ集『風に吹かれて』一冊で十分、いまだにわがバイブル。

 

五木さん、病気知らずで70年あまり病院へ行くことがなかった、つい最近、左足に違和感を覚え、病院へ行った、医師の問診などは省かれ、X線だの血液の検査など、人智の通わぬ診療を受け、医療現場の実際を知った、もう一つ、85歳になって、自分の血液型を知った、B型だった、というオチ、には複雑な笑いを誘われた。


ああ、我が心中の虫、がうごめき始めた、らいいのにな。