長旅をめざして

4月も半ばを過ぎ、時の流れは尋常ではない。個人的には緩やかに流れているように思うのだが、私の耳元には「生き急げ、生き急げ」とたえずささやかれている。生き急げと言われるのはオマエの残り時間は短いのだと宣言されているのと等しく、甚だ不快に感じる。


とはいっても、ルーティンは確実に存在し、それをこなし、そのほかの時間を映画を見たりするのだが、そういう日々でいいのかと考える自分も頭をもたげてきている。鬱に近い塞ぎの感覚。


ツイッターに、私より少しだけ年少の方が、4月の頭からおよそ一ヶ月の予定で、仕事を休み、旅に出ているのだが、そのリポートにいたく癒やされている。一日にポイント、ポイントでの旅の刻印をツイートしている。ツイートとともに写真も添えられていて、何より、写真の腕が秀逸なのがインパクトを持っている。


観光地ではなく、ある地方の町から町を歩き、路地を徘徊し、川岸や海岸を歩き、写真を撮る、風雪や年月に堪えた時間を感じさせる写真は、誰にでも撮れるものではなく、その方の眼が確かだから惹き付けられる。


この方と同様に、<人生最後の長旅>を試みるにも、万全の健康体が欠かせない。かかりつけ医からは、「怖じ気づかずに、体を動かしてください」と脅しに近い助言をもらっている。明日から気温も上昇の予報、震えながら体を動かそうと思う。

静かな興奮

3月が終わる。桜が舞い散るシーンとともに4月に進む。3月は停滞の月でした。前回の更新直後の13日の夕刻、立ちくらみともめまいともふらつきともいえるような不思議な状態に陥り、ソファに横たわった。直後、帰宅した家人に伴われ、最寄りのM病院まで<歩く救急人>をした。


淡い血栓が原因と診断された。帰宅も歩きで、食欲などわくはずもなく、家人お得意の<粥>を食し、安静生活に戻った。以降、寒暖差の激しい日々をおびえて過ごす、そんな日々なのに、昨日までの日々は<静かな興奮>と称するにふさわしい日々だった。


その象徴は、『菊地成孔の粋な夜電波』。毎回濃密で示唆に富んだ番組だが、今回は自身が音楽を担当し、自ら出演している映画『素敵なダイナマイトスキャンダル』に関連して、監督(冨永昌敬)、原作者(末井昭)、菊池氏とともに音楽を担当した小田朋美らの談論風発、もちろんサウンドトラックから紹介のいくつかもさることながら、・・・。


『ジャッキー』というケネディ夫人を主人公にした映画の音楽がいい、という指摘はすぐさま確認するため視聴、ジャッキーを演じるナタリー・ポートマンも出色だが、音楽もドキュメントを活かしていた。


ツイッターで知った新刊情報から『島とクジラと女をめぐる断片』(アントニオ・タブッキ著、須賀敦子訳、河出文庫)は、解説文『幻の燈台に向かって』を寄せた堀江敏幸とも相まって、3層の隠喩としての断片がかさなり、まさにここから全体像を探るという読書の楽しさは<静かな興奮>を呼び起こすのに十分。


堀江敏幸には先週刊行された『曇天記』というエッセー集があるが、何せ発症から10ヶ月経った病気の痛点が右目のところまで降りてきており、上記の文庫本一冊を読み切るのに四苦八苦の状態、しばらく休養してからの挑戦を期す、つもり。堀江氏個人がハマっているという台湾のフォークシンガー、クラウド・ルーの数曲をダウンロードして聴いている。

 

 

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塞ぎの、兆し

今は、一日3000歩の歩行、ゆったりとしたストレッチを6種類、・・・、がわが行動のすべて。バスで渋谷に出て、東急本店まで往復すると、おおよそ、3000歩。しかし、3月に入って、なぜか渋谷へ行こうという気にならない日が続いている。


昨日は家人と外食しようと最寄りのファミレスまで歩いて、往復しても2000歩までいかない。夜中にコンビニに出かけ、ようやく3000歩達成。今日などは、お出かけ日和なのに、出かける気にならなかった。


かかりつけ医の意向では、最低気温が10度を超えたら、5000歩にしよう、最低気温が15度を超えたら制限を緩和しよう、そういうことらしいが、暖かくなるにつけ、塞ぎの傾向が出てきてしまい、自分自身で戸惑っている。


塞ぎの傾向はあるものの、落ち込んでいるわけではない。ホリーコールのCDを聞きながら彼女の『テネシーワルツ』をテーマソングにした、ドラマ(10年ほど前の作品)なんぞを引っ張り出して、見ていた。


1話が1時間超で5話あるから、見終えるのに二日かかった。主人公の補佐役を大杉漣が演じているのには参った。彼を一流ならしめた<棒読み>スタイルをあらためて確認し、その<棒読み>台詞を主人公との絡みで展開し、さらには二人で喫煙するシーンなどを見てしまうと<たまらなさ>が募ってどうしようもないのだ。


喫煙シーンがない映画やドラマは最近10年ほどの、私にとっては新作であり、喫煙シーンがある映画やドラマは、はっきり10年以上前の作品である、そういう社会になってしまった、のですね。


さて、わが家のソバ猪口に植えられた桜、あと一週間ほどで開花しような勢いで、それから類推すると、東京の桜もあと10日ほどで開花すると、一個人の予測を。本音を言うと、「ああ、今年も桜の季節までたどり着けた」、もっと直截な言い方をするなら、生き延びたな、と。

 

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喫煙シーン、っていいよ。嫌煙という言葉は嫌いだ(笑)。『もうすぐ絶滅するという煙草について』という本が2月刊行され、それを渋谷のジュンク堂で立ち読みしていて、金井美恵子女史のエッセー(一文)に圧倒された記憶が今、よみがえってきた。あれは買わなくては。

啓蟄、を前に

二十四節気の中では、個人的に好きな<ケイチツ>、音感も字面もいい。啓蟄、3月5日に、蟄虫という名の冬ごもりの虫が一斉に這い出てくる、と広辞苑に出ている。太陽の黄経が345度、という説明もある。昨日(昼あたりから)、今日の太陽の光の強さは虫を這い出させるエナジー


地獄の2月を、クロエ・オブライエンとの邂逅によってナンとかやり過ごすことができた。彼女は男運は悪いし、社交的ではないし、今はやりのコミュニケーション能力がなかった。しかし、ファイアウォールを突き抜けることの能力がハンパではなく、男運も、社交も後処理することのできるものであることを承知していた。そして、本来の意味のコミュニケーション能力もハンパなく備えていることを実証していく。


損得ではなく、愛や正義のために自分に向き合い、人に向き合う、・・・、時代のテーマを体現していく彼女の存在に、私は魅せられた、惚れた、圧倒された。


クロエ・オブライエンほどではないが、もう一人、七四歳の桃子さんという存在も2月を攻略するのによき援軍となった。芥川賞受賞の若竹千佐子さんのデビュー作『おらおらでひとりいぐも』の主人公。スイングする語りは高齢者も若者もへったくれもない。縄文のジャズ、のおかげで久しぶりに小説を読んだ。


新刊『雪の階』(奥泉光著)という大作、怪作も挑戦したいが、持病2つに加え、どうやらノンキャリだった<花粉症>を初体験しているよう。ただ、目のかゆみ、鼻水は右に限られたもので、キャリア獲得、とまでは断定できないとかかりつけ医の診断。触れるものに触れないようそろりそろりと、やり過ごす日々。


大杉漣についても触れたいが、触れない方がという声が自分のうちから聞こえてくる。昨日ラジオでムッシュー・かまやつの一周忌を期に特集番組をやっていたが、あれ、もう一周忌なんだ、と時の流れが整理できていない。ラジオと言えば、この間、五木寛之さんがゲストで出ていたのを聞いた。頭脳明晰で言葉に淀みなく、世における<健康幻想>についてその嘘を喝破されていた、まことにあっぱれな八五歳。個人的には、氏の最初のエッセイ集『風に吹かれて』一冊で十分、いまだにわがバイブル。

 

五木さん、病気知らずで70年あまり病院へ行くことがなかった、つい最近、左足に違和感を覚え、病院へ行った、医師の問診などは省かれ、X線だの血液の検査など、人智の通わぬ診療を受け、医療現場の実際を知った、もう一つ、85歳になって、自分の血液型を知った、B型だった、というオチ、には複雑な笑いを誘われた。


ああ、我が心中の虫、がうごめき始めた、らいいのにな。

ナブンデアレ

菊池成孔の粋な夜電波2月11日朝の回をradicoのフリータイムサービスで聞きながら、月刊誌『文藝春秋』3月号の保阪正康浜崎洋介両氏の対談を読む。いずれも、西部邁氏追悼がテーマだった。菊池成孔はニュースを聞く数時間前に西部氏の番組の最終回を見ていたそうで。その回の最後に「これにて、ご免」といい放ったこと、同回の西部氏はいつもは白の手袋を着用するのを、片手は黒の手袋だった、つまりは一方が白、片方が黒、喪を象徴していた、というのだ。


この指摘が的を得ていたものであることが文藝春秋誌の対談で見事に証明されている。すべてが覚悟され、すべてを企図し、精神の自立を貫くために、実践された、というのだ。これ以上は語らない。しかし、三島由紀夫の市ヶ谷事件と同等の意義のある今回の<事件>について扱うメディアもなく、故人とあい付き合った思想家、文人の類いが無口なのが気になる。


菊池成孔西部邁氏追悼の最初にかけた曲、チェコのシンガー、ニコル・ブノウの「ナブンデアレ」が西部氏の最期の姿を、爽やかに象徴していると感じたので、購入してライブラリーに。

気になる女性たち

最後の大仕事を終えたことを受け、一つのヤマを超え、先週木曜日には、打ち上げも賑々しく行われ、まるで傭兵たちが一つの戦地で任務を終え、翌日からそれぞれ別の戦場へ赴く、イメージとしては、テントが点在する戦地で、たき火の周りに6名の傭兵、骨付きチキンを焼きながら、ホーローのコップでウイスキーを飲む、一緒にこんな酒盛りができるのはこれが最後になるかもしれぬ、それが傭兵の常、そんな夜、でした。


てなことを考えている間に、月は2月に突入し、あっという間に立春を過ぎてしまった。東京に2度目の雪が舞うが、前回ほどではなく、前回の残り雪さえ消してくれたのは功績大なものだった。まだまだ、寒さは続くようだが、今日など日差しには心なしか春の強さを感じさせてくれる。


さて、以前から、正確に言えば昨年の夏頃から、TBSラジオの堀井美佳アナウンサーが急にブレイクしたなという私的には刮目する現象を楽しんでいるのだが、久米宏との「ラジオなんですよ」に始まり、竹中直人との「月夜の蟹」、ジェーン・スーとの「生活は踊る」(金曜日)などキャラクターの異なる相手に誠にインプロビゼーションを繰り出してみせる技は聞き物。さらにソロでも境地を開くのは「生活は踊る」内のコーナーコンテンツ、「水音スケッチ」(平日12時代)におけるナレーション。


明らかに40代に入って境地を開いていった。結婚し、2児をもうけてからのブレイク、これは極めて珍しい。番組内で彼女のブレイクを指摘したのはほかでもない、ジェーン・スー。<群れない・泣かない・気にしない>の四十路、3ないトークがモットーなのだという馴れ合いの一切ないフルスロットルの番組で、ジェーン・スーの突っ込みに見事にかます天才的な天然を聞き逃す手はない。


もう一人四十路の女性で気に入っているのが、モリエ・オブライエン、だが彼女については、多くの人がその魅力について指摘しているので、これ以上は書きません。ただ、彼女のようなスタッフが居ると居ないでは、そのチームの総量に大いに影響を及ぼすことは確か。おお、ミステイク、モリエ・オブライエン、ではなく、クロエ・オブライエン、間違いに気づいたのが10日後とは、私の劣化も甚だしい。間違いついでにゴシック表記でクロエ・オブライエン

寒中につき

子供は寒さを感じないのだろうか、私の生まれ育った南信州は雪は少ないものの、寒さは厳しく、真冬は氷点下10度ほどの最低気温を記録する寒冷地、だった。昨日今日の東京地方の最低気温マイナス3度、4度などかわいいもの、のはず。寒さを感じたのは高校時代の通学時に、片道3キロほどの道のり(迂回する通学電車を降り、直線距離を歩いて寝坊した分を取り戻す、ショートカット通学法)を歩いた時だった。手がかじかみ足下が冷え、・・・、そんな感触を思い出した。


ル・グインが亡くなったというニュースがあったが、出版元各社の著者名表記がバラバラであるのがおかしかったのと、私は読もうとは思いつつも、一作も読んでいなかったことを改めて確認した。これからも、読むつもりはない。


さて、エビカンプロジェクトは大詰めで、月曜日夕刻に納品できることのメドが立った、さすが、仕事人、私を除いた強者5名のなせる技。たぶん、このメンバーで仕事をする機会は今後はないと思う。そういう時代なので。慈しむように、私はこれから週末を<最後のチェック>に時間を割くつもり。